飲み会などでお酒を楽しんでもう1軒という時、お酒があまり強くない人はコーヒーを飲みに行くことも多いのではないでしょうか。福岡は深夜まで営業しているコーヒーショップが多く、〆のコーヒーを楽しみやすい環境にあるのも特徴です。

福岡で〆のコーヒーを楽しむなら、カフェもいいけれど屋台もおすすめ。天神の北エリア、昭和通り沿いにある屋台街にやってきました。

2019年10月にオープンした「珈琲と蒸溜酒 megane coffee & spirits（メガネコーヒー アンド スピリッツ）」は、福岡ではここにしかないコーヒー屋台。福岡の屋台といえばリヤカーを土台としたスタイルが多いですが、こちらはボックス型のスタイリッシュな店舗が目を引きます。

コの字型のカウンターに青い椅子が並ぶ店内は清潔感に溢れています。壁に並ぶ道具の一つひとつにもこだわりが感じられ、見入ってしまいます。

店主の菅原武春さんは、東京で大手企業に勤めた後、福岡へ帰郷。福岡でも広報などの仕事をしていましたが、TVで屋台公募の情報を見て屋台を始めることを思い立ったそうです。「東京から戻ってくる時に、将来的には福岡でしかできない仕事をしたいと思っていたんです。夜になったら屋台があちこちに現れる、そんなまちは福岡しかないですよ」と菅原さん。とはいえ、飲食業の経験もないため料理は難しいと考え、好きだったコーヒーとアルコールをメインにした屋台を始めることにしました。

「普通の屋台の形にしてしまうと面白味がないので、デザインにこだわった屋台というスタイルでコーヒーを提供することにしました」。確かに、これまで屋台に足を運ぶことが少なかった若い世代やお酒を飲まない人でも訪れてみたくなる雰囲気が屋台の外からも感じられます。

メニューはコーヒーといくつかのソフトドリンク、アルコールは焼酎やウイスキー、ジンなどの蒸留酒のみ。アルコールはほかのお店であまり見かけないものを選んでいるそうです。コーヒー豆は、福岡市平尾「ROASTER’S COFFEE 焙煎屋 平尾店」に依頼したオリジナルの「メガネブレンド」を使用。もともと好きだった「焙煎屋」のハウスブレンドを屋台で使おうとしたところ、店主の平山謙吉さんから「オリジナルを作りましょう」と提案を受けたそうです。菅原さんがリクエストしたのは、すっきりしていて苦すぎず、酸味が強すぎないバランスの取れた味わい。さらに珈琲焼酎を作ろうと思っているのでそれに合うものと依頼して、現在のブレンドに仕上がりました。

「メガネブレンド」（600円）。グァテマラやブラジルなど5つの産地の豆をブレンドしたコーヒーは菅原さんのリクエスト通り、すっきりとしたやさしい味わい。夜に飲むコーヒーにぴったりですね。ちいさなベビードーナツが付いているのもうれしいポイント。コーヒーカップは波佐見焼の窯元「山下陶苑」が手がけたものです。

一番人気のメニューは「コーヒーハイボール」（800円）。国産ウイスキーに「メガネブレンド」の豆を漬け込み、一定期間寝かせた珈琲ウイスキーをソーダで割ったものです。取材時もお酒が好きなお客さんはこのメニューを注文していました。

毎日2時間かけて設営し、3時間かけて片づけるという屋台は、水上公園の「SHIP’S GARDEN」や大濠公園の「大濠テラス」を手がけた福岡の設計事務所「リズムデザイン」によるもの。機能的で美しいデザインが認められ、2021年度のグッドデザイン賞を受賞しています。

初めての経験となる屋台を開いて今月で丸4年。「自分はサービス業には向いてないだろうなと思いながら始めたのですが、いまは楽しくやっています。これまでの仕事では出会えなかったような人と話ができるのが楽しいですね」と菅原さん。取材時もオープン直後に関わらず、地元の人を中心にすぐに満席になるほどの人気ぶりでした。22時台が一番込み合うそうなので、落ち着いてコーヒーや会話を楽しむなら早めの時間がおすすめです。お酒が飲める人も飲めない人も、1人でも複数人でもふらっと立ち寄れるまちのコーヒー屋台。異色の屋台の出現を機に、福岡の屋台文化に新しい流れが生まれそうですね。

※1人あたりチャージ300円がかかります。